絶えた光、暗闇の中。



 絶望の色をした空は青く、どこまでも高い。吹き抜ける風は心地良く、まるで地獄への道しるべのようだった。
 ヘルムは眼前に広がる見慣れた山々を見渡した。複数の山が連なり、谷あいには大きな川が流れている。その川には無数の魚たちが棲み、水はこの山々に棲む動物たちの命の源となる。
 二本の脚で踏み締める大地は、この星の鼓動を感じさせる。
 生きている。
 全てが、生きている。
 終わりゆくだけの自分達と違って、この星の命はまだまだ紡がれてゆく。いつまでも、きっと、未来永劫に。
「ヘルム!」
 後ろから声をかけられて、ヘルムはその声の主に振り向いた。
 人間の身体に、少し硬めの鈍色の毛が纏う狼の耳と尻尾を持つライマは、果実を両手いっぱいに抱え、尻尾をぶんぶんと振ってこちらに駆け寄ってくる。
 特徴的なその姿は、獣の血が混じった証だった。所謂、獣人と呼ばれる種族だ。
 はじまりはどこだったのか、誰も知らない。
 人間でもなければ獣でもない。
 遙かなる昔は人間と共に繁栄を極めた彼らだったが、時代の流れと共に人間からは異端として迫害されるようになり、人間たちの生み出した電気や機械といった文明から逃れるように、この山へと逃げこんだ。
 それは一体いつの頃だったのだろうか。ヘルムの曽祖父が幼い頃には、もう既にこの山に住んでいたと聞いている。
 満足な医療もなく厳しい自然と襲い来る迫害は、この山に逃げ込んだ獣人たちはここ数十年で大きく数を減らし、残っているのはもうヘルムとライマしかいない。
「ご飯の時間にしようよ!」
 ライマは、ヘルムの目の前に抱えてきた果実たちをどさりと置いた。
 耳や尻尾と同じ鈍色の髪は邪魔にならないよう短めに切られていて、燃え盛る炎の色を宿した瞳はどこまでも無邪気で、その内に秘められた感情を余すところなく真っ直ぐに表現する。
「……ああ」
 ヘルムはライマの笑顔につられるように、その頬を緩めた。
 ヘルムもライマと同様、獣人だ。少し癖のある栗色の髪を乱雑に伸ばし、うなじで一纏めに括っている。前髪も随分と伸びてきていて、そろそろ切らなければいけないと思ってはいるが、面倒でそのままになってしまっている。
 二人は幼い頃からずっと一緒に居た。
 ちょうど同じ頃に生まれ、少なくなってきた獣人たちの中で唯一の子供だった。徐々に死にゆく大人たちを見送りながら、自分たちが最後になるのだとわかりながら、それでもなお生きて、二人は大人になった。
 もう――子を紡ぐ事は出来ない。
 獣人という血を引き継ぐことは、できない。
 折角二人も残されているというのに、そのどちらもが雄ならばどうする事もできなかった。
 連なる山々の谷あいをよく見渡せる、芝生に包まれた小高い丘に二人は並んで腰を下ろし、ライマの採ってきた果実を食べ始めた。
 橙色の皮に爪を立てて剥き、皮よりずっと鮮やかに輝く実をとるとそれを口に放り込む。噛み締めると果汁は弾けるように飛び出し、甘酸っぱい香りと共に喉を潤す。
「んー!この酸味がたまらないよね!熟れきってない今頃が一番好きかなっ!」
 ライマは満面の笑みを浮かべて、噛み締める度に手足をバタバタと跳ねさせ、全身でその感情を表現する。
 相変わらず子供っぽい奴だ――そんな感想を抱きながら、ヘルムはその果実を無感動に咀嚼した。
「ヘルムはもうちょっと熟れた方が好みだったりする?俺は今くらいのが一番だけど、しっかり熟れたのも好きだよ!でも甘いとついつい食べ過ぎちゃうんだよね」
 そう言ってライマはぺろりと舌を出す。赤く血の色をした粘膜は程よく濡れていた。
「……どっちでも、いいかな。俺は果実とかより魚の方が好きだし」
 手についた果汁を舐めながらライマに答える。
 果実は爽やかな酸味を口に届けてくれる。ライマの言うようにその酸味も、もっと熟れてからの蕩けるような甘さも好きだったが、ヘルムはそれよりも魚の方が好みだった。
 川で魚をとって串にさし、焚き火をおこして焼くだけの簡単なものだが、その淡泊な味は、果物を食べて得られる満足感とはまた別種のものだ。
「それは知ってるよ!いつから一緒にいると思ってんのさ。……じゃあ、今晩は魚にしよっか。釣るの手伝ってよね」
 ライマは眉をハの字に寄せ、けれどその次の瞬間にはまたいつものような明るい笑顔に戻っていた。
「わかった。これ食い終ったら行くか」
 ヘルムは手に取ったまん丸い果実の皮を剥く。爪で果皮を切り裂き、実を取り出す。
 閉ざされた未来。
 今はこうして二人でいる事が出来る。
 他に誰もいないけれど、ライマはいる。
 一体、いつまで二人でいられるのだろうか。
 もしも先にどちらかが死んでしまったら――ライマが死んでしまった時に、残された孤独の時間をどう過ごしていけばいいのだろうか。
 それが、とてつもなく怖て、考えるだけで孤独は深まった。
 誰もいない世界。孤独の世界。二人きりの世界。やがて訪れる一人きりの世界。
「ヘルム、また変な事考えてる」
 いつの間にかまた栓のない事を考えていた――。ライマに指摘されて、ヘルムは顔をあげた。
 近頃――残された者が次々とその命を全うし、ライマと二人きりになって以来、ヘルムの気分はどんよりと沈み込んだままだった。
「ああ……ごめん」
 膨れっ面のライマは手を伸ばしヘルムの髪をぐしゃりと撫でる。髪を乱すように掻き回し、ついでに獣の耳も纏めてやや乱暴に撫でまわす。栗色の髪は掻き回される度に、陽光に照らされてキラキラと輝いた。
 ライマと一緒にいれば楽しかったし、ライマの優しさは大切な人を失った悲しみを癒してくれる。
 けれど、この日常もいつか終わってしまう。
 平凡な日常は、かけがえのない普通でいつも通りの日々は――、一度失ってしまえばもう戻ってくる事はない。
 怖くて怖くてたまらなかった。
「ヘルムは、本当に怖がりだもんね。……そんな先の事、考えても何もわかんないのにさ」
 まるで子供に諭すかのような優しげな口調で、ライマはゆっくりと語りかける。
「先の事はわからないけど、今は二人でいられるんだから、それでいいんじゃないかな。俺は今、ヘルムといられるから幸せだよ。ヘルムと二人きりでよかったと思う。残されたのがヘルムで、本当に良かったと思う」
 じっと視線が絡む。赤い瞳は真実しか語らない。幼い頃から何一つ変わらない瞳だった。ヘルムが信じられる唯一の真実だった。
「俺も……ライマと一緒に居れて、よかった」
 だから、真実には真実を返す。己の内を、曝け出す。
 髪を撫でていた手はヘルムの頬に降りてきて、その頬をそっと撫でる。指先は冷たく、その体温が心地良かった。
「最後まで、一緒にいようね」
 最後とは、一体何を指すのだろうか。命の炎が燃え尽きるその瞬間という意味でよかったのだろうか。
 近付く唇に捉えられ、身を預ける。
 先程見た妖艶な舌に口内を侵される。指よりも熱いそれは上顎を優しくなで、じん、と痺れるような刺激が背筋を駆け抜ける。
「ん……」
 どちらのものともつかない甘い声が漏れた。
 陽光の降り注ぐ屋外で、溺れる様な甘い口付けを交わす。
 舌を絡め、互いの粘膜の味を覚える。唇を噛む痛みは心地良く、端から漏れる唾液が顎を濡らした。
 唇を離すと唾液は糸となって二人の唇を繋ぎ、やがて自重に耐え切れず途絶えて消える。
「ヘルム……」
 左右の手をそれぞれに指を絡め、ヘルムは押し倒されるままに身体を横たえた。寝転ぶと一面に生えた芝草が頬をくすぐる。
 ライマは片方の膝をヘルムの足の間に入れて覆いかぶさった。背骨から連なる尻尾が豊満な毛を揺らした。
 真上から注がれる熱い眼差しは僅かに潤んでいて、その奥に秘められた情欲が溢れている。
 冷たい指先は衣服の中にさえ侵入してくる。肌を這う指は軽やかで、ぞくりと震えた。
 乱れた着衣の隙間から肌が覗き、それを太陽が照らす。やけに背徳的で、内側にこもった熱がより一層燃え盛るようだった。
「ライっ……」
 胸元の突起に指がひっかかる。掠めた指は脇腹から臍に移動したかと思えばまた再び胸へと戻ってくる。鼓動が早鐘を打ち、期待で熱が溢れた。
「大好き」
 耳元で囁かれて、言葉を返そうと思ったその刹那には再び唇を塞がれていた。
 そして、指は乳首を捉え、柔らかく捏ね回す。痺れるような刺激が断続的に溢れ、身体の中心へと流れていく。
 快感というには物足りず、ヘルムは強請るように腰をくねらした。そうすると、足の間に膝をついたライマの太ももにペニスが擦れて、甘い快感を呼び起こされる。
 口腔を侵す舌はヘルムの感じる上顎ばかりを擦り、その僅かな息苦しささえも今は己を高める刺激となる。
 ライマに両手で二つの乳首を弄られながら腰を振り、思わず漏れそうになる甘い声は全て吸われてしまう。
 まだ昼間で、それも太陽の下にいるというのに我も忘れて与えられる快感を貪り、溺れる。
 不意に唇が離れて、ヘルムは失ったそれを惜しげに追うが、すぐに身体ごとおさえつけられてしまった。
 強く抱き締められ、弄られた事で膨らんで充血した乳首がライマの服に強く擦れた。
「ヘルムはこういうの好きだよね。大丈夫俺が一生面倒見てあげるから。ヘルムは何も心配しなくても大丈夫だから」
 囁かれる声に、安堵する。油断すれば涙まで湧いてきそうな程だ。
 この腕の中なら、閉ざされた未来にも希望を見出せた。
 いつか訪れる孤独の事なんて忘れて、二人でいるこの時を心に深く刻む事が出来た。
「ライマ……」
 幼馴染の名を呼ぶ。
 二人で身体を繋げる事になんの意味があるのだろうか。意味もなく精を吐き出し、命を紡ぐために湧き出る欲求を消化する。
 時折虚しくて、けれど、その腕に抱かれている間だけは確かに幸せだった。
 自分を好きだと言うライマは、もしも二人きりでなかったのなら自分を好きになる事はなかったのかもしれない。こうして、二人で抱き合う事はなかったのかもしれない。
 それを考えると、今の二人きりの世界も悪くないように思えるのだから不思議なものだった。
「全部脱いじゃおっか」
 そう言ってライマは悪戯な瞳で笑った。
 ライマに促されるまま衣服を全て脱ぎ捨てる。生まれたままの姿で四つん這いになると、ピンと立った獣の耳やたっぷりの毛を持った尻尾が彼らが獣人である事を際立たせる。
 決して紛い物ではない、残された最後の命だった。
 ヘルムの足の間にある雄の印は既に硬く勃起していた。
 上体を下げて腰を上げて股を開き、背後のライマに普段は秘められた大事な部分を見せつけて快感を強請る。
 以前ならば恥ずかしかったこの格好も、その後に訪れる充足感の事を思えば何の抵抗もなかった。
「淫乱」
 からかう様な口調で言われて、ヘルムは頬を染めた。
 尻尾をあげたその下、排泄器官だったはずのその場所は、今では男を受け入れるためのものだ。
 ライマは自身の親指を口に含んで唾液を絡ませると、晒されたその秘孔に親指を突き入れる。
「んぁっ……」
 身体を割り開かれる衝撃に声を漏らす。狭い肉を割り、強引に差し込まれた指は容赦なく深みを抉る。
 呼吸が途絶えそうな痛みと、体内を犯される圧迫感、親指を締め付けてはその先に待つ快感を期待して内壁を蠢かせる。
「こうしてナカ混ぜられるの好きだよね」
 ライマの親指は孔を広げるかのように内壁を深く抉って掻く。根元まで突き刺された親指は時折感じる部分を掠め、ヘルムは小さな呻き声と共に勃ちあがったペニスから先走りの液体を漏らした。
 粘度のあるそれは先端から糸を引いて大地へと落ちる。
「ライマぁ……それ、やめっ……」
 快楽に堕ちた甘い声は、ライマの指の動きに呼応するかのように溢れる。
 後孔で得る快感は深く、自分が自分でなくなってしまいそうで、頭の芯が蕩けてなくなってしまいそうで、毒のように甘い。
「やめてって、なんで?腰動いてるのに?」
「ひぁっ……」
 ライマは時折自分の唾液を後孔に足しながら、感じる部分だけを深く押し込んだ。剥き出しにした神経を直接嬲られるかのような強烈な刺激に背を戦慄かせ、悲鳴をあげてその場に突っ伏した。
 尻だけはライマに捕らわれ支えられている。体内の一番善い場所への刺激は止む事無く、歓喜の声をあげ続けるヘルムの瞳には生理的な涙さえも浮かんだ。
「ヘルム、可愛い。愛してる。こんなに可愛いヘルムが俺だけのものなんて信じられない」
 ヘルムの体内を開きながら身を乗り出し、その背中に舌を這わせると、ヘルムはびくびくと背を逸らせて跳ねた。
 ライマの言葉は、まるで空虚のようにヘルムを通り過ぎていく。
 どこからが嘘で、どこまでが真実なのか――。
 濡れた瞳に問うても、その瞳はいつもと同じ燃える色で笑うだけだった。
「やぁっそこ、やめっ……」
 唐突に尻尾の付け根をくすぐるように撫でられ、ヘルムは絶叫にも近い嬌声をあげる。
「さわらなぁっ……ひぅ……」
 そこはヘルムの好きな場所だった。
 そこを撫でられるだけで腰が揺らめき、甘い痺れが身体を駆け抜ける。けれど、今は腰を揺らめかせる事で体内に咥え込んだ指にも内壁を刺激され、身体を覆う快感は何倍にも膨れ上がるのだ。
 言葉は言葉として紡ぐ事も出来ず、唇の端から涎を流し、膝をふるわせて与えられるだけの快感を享受する。
「ねえ、ヘルムは俺の事、好き?」
 訊かれて、考える。
「そこっ……」
 甘い声をあげながら、快感を貪りながら、答えを、考える。
 好きか嫌いかで尋ねられれば、嫌いではないはずだ。
 生まれた時からずっと一緒にいた幼馴染で、一族の最年少の最後の生き残りで、兄弟のように暮らしてきた。
 かけがえのない大切な相手で、いなくなっては困る相手だ。
「ね、言ってよ。俺の事好き?」
 ライマは尻尾の付け根をくすぐる手をとめ、体内に沈めた指も動かさぬままだ。
 何とか快感を得ようと腰を深く回すように動かしてみるが、今まで与えられてきていたような快感は得られなかった。
「俺はヘルムの事、好きだよ」
 何故、ライマは自分の事を好きだと言うのだろうか。
 魅力なんてどこにもない。好きになる理由なんて、どこにもないはずだ。
 ライマのように明るくなければ、笑顔だって苦手だ。会話も得意ではないし、長所と呼べるような場所は何一つとしてない。
 それなのに、ライマはこうしてヘルムを組み伏せたがり、そして好きだと囁くのだ。
「ライマっ……おねが……」
 焦れたヘルムは目一杯に首をねじまげて後ろを振り返り、ライマに快感を強請る。
 身体を満たす快感が恋しくて、体内はどくどくと疼いていた。
「好きって、言ってよ」
 自分を見詰めるその赤い瞳が、どこか泣きそうだったのは気のせいだろうか。
 決して失いたくない相手だ。
 大切で、今では唯一無二の家族だ。
 けれど、ライマの求める『好き』とはそういう事なのだろうか。
「好きって言ってくれたらもっと気持ちよくしてあげる」
 悪魔のような囁きが、ヘルムの正常な思考を侵す。
 残されたのがこのヘルムでなくとも、ライマはこうして相手を好きになっていたのだろうか。
 胸が焦がれるように熱く痛む。
「ねぇ、はやく」
「ひっ……」
 出し抜けに埋め込まれた指で内壁の感じる場所を強く抉られ、ヘルムは悲鳴をあげて戦慄いた。
「言って?」
 そして指はまた動かされる事なく、埋め込まれたまま微動だにしない。
 快感を得るその場所は絶頂の極みを求めて疼き、限界だった。
「す……き……」
 小さな声で、呟く。
 今生き残っているのは、自分とライマだけだ。
 ライマの事は好きだ。
 大切な幼馴染として、かけがえのない兄弟として――。
 最後の生き残りになった。
 寂しくて、寂しくて、時には押し潰されそうになる。
 想い出だけを胸に、孤独を生きていかねばならない。
 けれど、ライマがいる。
 たった二人生き残り――これからを生きていく。
 例え、それが選択肢がない故の結果だとしても、こうしてライマに好きだと言われ、身体を重ねる事ができる。
 それだけで、満足だった。
 最後に生まれる事が出来て良かったとすら思える。
「んっ……」
 満足げに頷いたライマは指を引き抜き、後孔に熱を宛がった。
 男を受け入れるために深呼吸を繰り返し、身体の力を抜くとライマもそれに合わせて腰を押し進めた。
 指とは違う質量に体内を犯され、詰まりそうになる息を必死で吐く。
「ヘルムっ……」
 少しでも気を抜けばその鋭い熱の塊に身体の全てを支配されそうで――大地の草を握りしめ、衝撃に耐える。
 背後から響くライマの声は熱く、情欲にまみれている。
「やっ……そこっ……もっと……!」
 ライマが腰を動かすたびにずちゅり、と濡れた音が響く。
 高く広がる青空の下、己の快楽だけを求めて駆け抜ける。
 身体を貫く男根に溺れ、快感の渦に飲まれる。己の身を取り巻く全てをどうでもいいと思えるような、そんな圧倒的な快感だった。
 尻を振って男を受け入れ、大地に子種を滴らせては悲鳴をあげる。
 ライマを喰らいこみ、ライマの精を受け止める。
 白濁の液体が入った壺を撹拌するように掘削されて、ヘルムは甘い声をあげた。
 訪れる未来はないし――いずれ孤独は訪れる。
 ライマかヘルム、どちらが先かはわからないが、命には限りがある。
 それでも、最後のその時までライマと一緒にいたいと思った。
 たった二人の生き残りで、誰にとられる心配もない。
 ライマを、独り占めにできる。
 吐息も、体温も、脈動も、全てがヘルムのものだった。



「あーあ、派手に汚しちゃったね。……っていうか、はやく魚とりにいかないと夕飯あぶれちゃうよ」
 ライマは地面を見下ろし、盛大なため息を吐いてみせた。
 先程まで二人が果実を食べ、そして交わった場所は――今では芝草が二人分の体重に負けて捩れ、そして二人の放った汗や涙、そして白濁の液体で無惨に濡れている。
「ん、今いく。……俺も身体洗いたいし」
 衣服を簡易的に整えたヘルムは立ちあがったが、立ち上がると体内に放出されたものが後孔から溢れて太ももを伝い、顔を顰めた。
 快楽の余韻は深く、まだ痺れるような倦怠感が残っていた。
 しかし、太陽は既に傾きはじめていて、空には青から橙への綺麗なグラデーションが描かれている。
 食わなければ、生きていく事はできない。
 いつか訪れる孤独を、哀しみを、わかっていて――二人で生きてみたいと思った。
 その温もりを一日でも多く感じているために、生きていたいと思った。
 待ち浮ける絶望は怖かったけれど、二人でなら歩んでいける気がした。
「ヘルム!はーやーくー!」
 小高い丘を一足早く駆け下りたライマは、後ろを振り返ってぶんぶんと手と尻尾を振る。
 ヘルムも手を振りかえし、尻尾も控えめに振りながら一歩を踏み出した。



絶えた光、暗闇の中。




ご閲覧有難う御座いました。
この作品はtwitterで診断メーカーを使用した時に出たお題作品です。

涼和は12RTされたら婚姻色の出る狼の獣人でモフモフされる話を書きます。 #獣人小説書くったー http://t.co/a4lXVFUrb5 来たらいいな…!!来たら今のとりあえず置いといて最優先で書く…!!

— 涼和 (@ryowa0914) 2014, 10月 5

指定数よりたくさんRT頂いたりしたのに、見積もり甘くて(別の作業がちょっと修羅場っててこちらまで手が回せませんでした;)書き上げるのにむちゃくちゃ時間かかりました!
婚姻色はどっかいっっちゃったしモフモフもあんまりしてないんですけど、少しでもお楽しみ頂けましたら幸いです!

励みになります!

よければお声も聞かせて頂けると嬉しいです!
おなまえ


ご感想やリクエストなどがあればどうぞ!


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