執着の檻-After Story-
 窓から差し込む月明かりだけが透也の横顔を青白く照らす。満月の今夜は、それだけの明かりでも艶やかな肢体を彩るには充分だった。
「んっ……」
 赤い首輪を嵌められた喉を反らせ、甘い声を漏らす。部屋に舞う濡れた空気は、透也の肌をしっとりと濡らした。
 口腔に含んだペニスに舌を絡めると、頭上から色付いた溜息が降り注ぐ。主人である顕が感じていてくれるのだと思うと嬉しくて、更に喉の奥まで銜え込む。亀頭が上顎に擦れると痺れるような電流が腰へ流れ込んだ。
「透也、お尻こっちに向けて」
 もう一人の主人である遼の声に従い、口からペニスを離して体勢を変える。両肘と両膝を柔らかなマットレスの上について尻を高く掲げた。尻たぶを遼の手が掴み、その中央にある孔を晒すように割った。秘められた場所へ冷たい空気を感じ、何度経験しても慣れる事のない挿入の瞬間へと身構える。
「あっ……! 遼、さんっ……!」
 後孔へ侵入する遼の男根を感じた。身体を内側から割り開かれる快感に、内壁は透也の意思とは関係なく蠢き、より一層奥深くまで受け止めようとしている。
 前立腺を捏ねるように抉られ膝が崩れ落ちそうになると、遼は透也の腰を支えそれを阻止した。けれど上体は崩れてしまい、胡坐をかいた顕の太ももに突っ伏す様な姿勢になる。遼が突き上げる度、反り返った背がいやらしくうねった。
 顕は透也の頬を爪の先で撫でてから指先で顎を捉え、自分の方へと向かせる。透也の視界には先程まで自分が舐めていた熱いペニスがあった。
「顔にかけたいからこっち向いて目を閉じて」
 顕の指に従って顔を上へと向けると、顕はその眼前で自らのペニスを扱く。普段見ているはずのものでも、目の前の僅か数センチという距離で見るといつも以上に羞恥を覚えてしまうのは何故だろうか。
 その間にも遼の律動は止まず透也に快感を与え続ける。
 羞恥と愉悦に頬を赤く染めながら瞼を閉じると、顕の微かな呻き声と、頬に断続的に飛ぶ温かい液体を感じた。
 顕の射精が終わった事を感じ瞼を開ける。顕の指は頬を汚す白濁を拭い、透也の口へと押し込む。透也はそれを、まるでご褒美に与えられる甘いご馳走のようにうっとりと蕩けた表情で舐めとった。
「顕が終わったんなら、こっちにも集中してよね」
 遼はそう言って、今までよりも激しく腰を打ち付け透也の内壁を抉る。腰が大きく揺さぶられ、顕の太腿へ縋るように爪を立てた。
「ひっ、あっ、んっ……!」
 閉じられなくなった唇から嬌声が溢れだし、顕はその透也の頭を愛おしげに撫でる。
 張り出たカリが前立腺を擦って最奥を割り開く愉悦は、透也の思考を麻痺させ脳髄を融かすようだ。顕の筋張った男らしい指に舌を絡めながら体内で得る快感に、うっかりすれば溺れそうになってしまう。
「透也、可愛いよ。愛してる。このままずっと透也にハメてたい」
 僅かに呼吸を乱した遼は、透也の尾てい骨をそっと撫でながら言った。皮膚の薄いそこを撫でられると、背筋から脳天までくすぐったいような何かが駆け抜ける。
「ん……俺も、遼さんの事が好き……です」
 溢れた涎が顎を伝った。顕の指が透也の口腔内をかき回し濡れた音を立てる。顕は爪の先で舌を撫で、紅を塗るように唾液で濡れた指先で唇の形を辿った。
「俺の事は?」
 少し拗ねたような口調で、けれどその瞳は柔らかく微笑んでいる。透也は顕の手に頬を寄せ、快楽に濡れた声で言葉を紡ぐ。
「顕さんの事も……好き……っあ……!」
 偽りのない本心は背後から貫かれる衝撃で遮られてしまった。だが、顕はそれでも満足したようで、甘い嬌声をあげる透也の頬をしっとりと撫であげる。
 伝わる体温に心が満たされていく。透也のこれまでの人生の中で、二人に抱かれているこの瞬間が何よりも幸せだった。



 遼と顕は二卵性の双子だった。その二人の愛玩用ペット兼恋人として暮らすようになって、早三か月が経過しようとしている。
 毎日を家の中で暮らす透也だったが、透也に与えられた仕事は二人の身体の相手をする事だけだった。
 愛玩用ペットとしての性質と、透也の手先の不器用さを鑑みた結果だ。なにせ透也はそこなしに不器用で、二十四歳という年齢であるにも関わらず三か月以上継続して同じ仕事を続けた事がない。本人にやる気はあるのだが不器用故のミスが多く、最後の仕事はバーテンダーのアルバイトだったが、グラスを割りすぎたためにクビになっていた。
 当然の事ながら料理や洗濯といった家事でもミスは多く――後始末をするのが面倒だ、という理由で透也が家事を手伝う事は禁止されている。
 遼と顕が仕事をしている日中は、透也は何もする事がなく退屈な日々を送っていた。何もしなくていい、という生活は初めこそ有難かったが、何日も何週間も続けば次第につまらなくなってしまう。本も読み飽きてしまい、テレビを見ていても一人では楽しくない。一人で出かける事は許されておらず窮屈な毎日だった。
 つまらない、と何度も思いながら、けれど解決する手立てはなく、今日もテレビを見て余った時間を潰す。
 外は雪が降っていたが、室内は暖房が効いていてシャツ一枚で十分なくらいには暖かい。膝を抱えてソファーに座り、リモコンを操作し正面にあるテレビのチャンネルを順番に切り替えていく。背後からは在宅で仕事をしている遼の、キーボードを打ち鳴らすタイピング音が響いていた。
 二月というこの季節、メディアではバレンタインの話ばかりだった。遠い昔、チョコレートを貰った経験もあった事を思いだし少しだけ懐かしい気分に浸る。十年前の今頃は、まだ汚れた仕事も知らず自分にも人並みな未来が訪れると信じていた。ままごとのような恋をし、ままごとのような恋を終え、肉欲だけの大人の関係を知った。今の自分に後悔はしていないけれど、あの頃へ戻りたいと思わないわけでもない。もしもやり直せるのだとしたら、今度はもう少しまともな人生を送ってみたかった。
 そんな事を考えながら、透也はひとり肩を竦める。
 繰り返すが後悔をしているわけではない。後悔どころか、今の現状にはとても満足しているのだ。
 遼たちと出会うまでそれなりの苦労もあったが、結果的に遼たちのペットとなる事が出来て楽な生活を送れている。人並みな道からは僅かばかり逸れてしまっているが、それは今にはじまった事ではないのだから仕方がない。
 今が幸せなら、それだけで満足だった。遼と顕からの溢れんばかりの愛情を感じられる今は、かけがえのない幸せな毎日だった。
 透也の瞳はテレビの画面を映す。テレビの中ではどうやら手作りチョコの作り方を解説しているようだ。
「……バレンタイン……か……」
 好きな人にチョコを贈る日なのだと改めて気付き、どきりと胸が高鳴る。普段遼たちから愛情を受けるばかりで、自分はそれを返す事が出来ているのだろうか。
 少し考えてみたけれどよくわからなかった。そして、よくわからないのであれば形にして返せばいいのだ、と思い至る。
 透也ははっと立ち上がり、背後でパソコンに向かい仕事をしている遼の元へと駆け寄った。
「あの、遼さん! チョコ作りたいです!」
 テレビを指さし期待に膨らむ笑みをいっぱいに湛えて言うと、遼は仕事の手を止めゆっくりと顔をあげた。
「……チョコって、透也が? 作れるの?」
 仕事の時にだけ着ける眼鏡を外し怪訝そうに眉間を寄せる。
「溶かして固めるだけ、ですよね……? それくらいなら俺にも出来るかなって、ほらバレンタインですし」
 テレビと透也とを何度も視線を往復させ、やがて、「はぁ」と大袈裟な溜息を吐いた。
「……そうだね。今から作り始めたら顕が帰ってくるまでに出来上がるはずだから、作ってびっくりさせちゃおうか」
 遼は腕に嵌めた腕時計を確認しながら言うと、作業途中であったデータを保存しパソコンの電源を落とす。会社務めの顕と違い、時間に融通のきく在宅仕事である遼は、まだ昼前だというのに今日の仕事を終了させたようだ。
「普通の固めるだけのチョコでいいの? クッキーとかそういうのじゃなくて」
「難しいのは多分、俺には作れないんで」
 透也が肩を竦めると、遼は呆れたような乾いた笑みを漏らす。透也の事が好きでペット兼恋人として飼っているが予想以上の不器用さに嫌な思い出もあるらしい。
「材料買ってくるから、それまで何もしないで待ってて」
 面倒を増やさないための念押しをすると、透也は文句を言う事もなく素直に頷いた。自分が不器用な事は十分に自覚している。――不器用が原因で仕事をクビになり続けていれば自覚も生まれるというものだ。
 出掛ける遼の背中を見送り、顕に喜んでもらえる事を想像しながら頬を赤く染めた。



 透也が人生初めて作るチョコはなんとか形になった。――遼がなんとか無理矢理形にさせた、というべきだろうか。
 チョコを完成させラッピングまで施した透也はにこにこと満面の笑みを湛えていたが、その背後ではほんの数時間程度、チョコを作る透也のサポートに回っただけだというのにげっそりとやつれた遼と、荒れ果てたキッチンがあった。
 キッチンは何故か天井や壁にもチョコが飛び散っていて、遼はそれらが視界に入る度にうんざりと溜息を吐く。
 溶かして固めるだけだったはずだ。それについ先程、テレビでもその手順を紹介していたはずだ。透也はテレビを見て作りたいと言ったのだから、当然手順も理解していると思っていた。
 しかし考えてみれば不器用なだけで連続して仕事をクビになるものだろうか。手先の器用さを問わない仕事だっていくらでもあるはずなのだ。それなのに透也が仕事をクビになり続けた理由を、遼は今日改めて理解した。
 まず要領がこの上なく悪い。調理するものが決まっているのだから調理器具なども事前に用意しておけばいいものを、透也は直前になってからあわただしく探し始める。
 ここまではまだ調理経験の違いなのだと理解出来た。
 チョコを溶かす時には湯煎をする。常識の範囲内として知っておくべき知識であるはずだし、それに先程もテレビでやっていた。――はずだった。
 それなのに透也はあろうことか、砕いたチョコを入れたボウルにそのまま熱湯を注いだ。
 慌てて止めに入った遼に、透也は不思議そうに首を傾げるだけなのだから始末が悪い。新しいチョコを使って作り直そうと言った遼の反対を押しきり、透也は薄まったチョコでの制作を続行した。
 チョコを型に流し込む時には持ち前の不器用さで、一周まわって器用すぎるのではないかと思える動きでチョコを床や壁や天井に飛ばし、最終的に遼が型へ流し込んだ。
 固める時にチョコの上にナッツでも置いておけば見栄えだけはよくなるのではないかと提案した遼だが、透也は何をどう勘違いしたのかチョコの上に山盛りになるまで砂糖を振るった。甘さのプラスは食べられない方向へは転ばない事が想像できたし、どうせ食べるのは顕なのだから、と諦めにも似た感情でそれらを見守り、チョコは完成した。
 なお、湯で薄まっていたために冷蔵庫では固まらず冷凍庫で固まら――凍らせた。ラッピングを終えた今も溶けてしまわないよう再び冷凍庫に仕舞い込んでいる。
 透也が仕事をクビになり続けた原因は、圧倒的な一般常識の不足と要領の悪さ、自分なりの曲解と人の意見を聞き入れない頑固さ、それに不器用さが組み合わさったものだと思われる。
 透也をペットとして拾ったきっかけは、顔だった。とても綺麗な顔をしていて、遼の好みだった。その場の勢いだけでペットに誘ってしまった。だが、もしかしてとんでもないものを拾ってしまったのではないかと、改めて思い知る事が出来た。出来る事なら知りたくはなかった現実だった。



「ただいまー」
 すっかり陽も暮れキッチンの掃除も終えた頃、顕は仕事を終えて帰宅した。
「おかえりなさい」
 出迎えた透也は顕に唇を寄せキスをする。家から出発する時と帰宅した時には、そうしてキスをする事がこの家のルールだった。互いに舌を絡め甘く吐息を漏らし、唇を離す。
「顕さん、今日はプレゼントがあるんです」
 スーツ姿の顕の腕に絡まるように腕を組んだ透也は甘えた声でしなだれかかった。線の細い透也の体重は平均より僅かに下回るので、体重を預けられても顕には苦にならない。
「プレゼント?」
 ネクタイを解きながらリビングへと進む。頬を赤らめた透也はぱたぱたと音を立てて小走りにキッチンへ向かうと冷凍庫からチョコを取り出して顕の元へと戻る。
「これ、バレンタインなんで」
 チョコは透明のビニールバッグに詰められ、ピンク色のリボンで封がされていた。チョコを詰めたのは透也だが、リボンをつけたのは遼だった。
「え……! 透也が作ったのか……!? すごく嬉しい! 食べていい?」
 チョコを受け取った顕は思わぬサプライズに満面の笑みを浮かべる。リボンを取りチョコを手にとったところで動きを止めた。彷徨った視線は遼を探し当てる。
 どうやら顕は敏感にも異変に気付いたようだ。冷凍庫で凍らされたそれの温度のせいか、チョコというには薄すぎている香りと色のせいか、ぽろぽろと溢れ落ちるまぶされた砂糖のせいか、とにかく顕は手にとった謎の物体について、視線だけで遼に助けを求めた。
 けれど、遼は死んだ魚のような目で、ゆるゆると力なく首を左右に振るだけだ。味は――恐らく見た目通りの味だが、食べられないものは入っていない。
 顕が口にチョコを入れる瞬間を、期待のこもった瞳で待ち侘びる透也の表情はいつになく輝いていて魅力的だ。その透也を傷付けてしまうくらいなら、多少のダメージなら我慢をして食え、という事らしい。
 長年生活を共にした双子というのはその辺りの考えも、言葉がなくとも読み取れるようで、顕は覚悟を決めたように唾液を飲み込んでから頷き、チョコ紛いの何かを口腔内へ放り込む。
「うっ……」
 舌にひろがるのは薄いチョコ味の甘い氷だった。呻き声はチョコごと喉の奥へと押し込み、引き攣った笑みを浮かべる。
「俺、顕さんが好きです! まだあるんでもっと食べてくださいね!」
 透也の言葉に、目の前が真っ暗になってしまうような錯覚を感じた。身体に害はなくとも精神への打撃が凄まじい。顕がなんと言葉を返そうか思案していると、遼は横から助け舟を出した。
「透也、僕たちも透也が好きだよ。だから、実は僕も透也にチョコを用意してるんだ」
 いつの間に作ったのか――透也が汚したキッチンの掃除をしながら片手間に作ったチョコを冷蔵庫から取り出した。
 一口サイズのチョコにはナッツがのっていてラッピングは透也の作ったものと同じだ。
「食べさせてあげるから寝室に行こうか」
 透也にそのチョコを見せつけるようにしながら寝室へと誘い込む。――特段セックスがしたかったわけではないが、弟を救うための行動だった。
 寝室のベッドは男三人並んで寝ても窮屈ではないキングサイズだ。透也がやってくるまでは遼と顕は別々のベッドで寝ていたが、透也を共有するようになってから大きなベッドに買い替え同じベッドで眠るようになった。
 遼はそのベッドに透也を押し倒す。少し固めのコイルマットレスは、透也の身体をふんわりと受け止めた。
「遼さん……!」
 遼が透也の上に馬乗りになると、二人は互いの背中に腕をまわし抱きしめ合う。口付けを交わして唇を割り、舌を絡ませて唾液を交換する。透也の脳髄に痺れるような愉悦が走る。快感の予感は、透也の視界を桃色に変えていく。
「んっ……」
 重ねた唇の隙間から甘い吐息が溢れ出た。
 遅れて寝室に到着した顕はキスをする二人の隣へと腰掛ける。透也からもらったチョコをサイドテーブルに置き、二人の間に割り込むようにして透也に腕をまわした。
「あっ、顕さん……」
 唇まで強引に割りこまれ困惑する透也をよそに、遼は身を起こして顕に場所を譲り、呆れたような笑みを浮かべる。口付けを交わした顕の舌は少しだけ甘かった。
 遼と入れ違いに交わすキスは、よく似ているけれどその趣きは異なるものだ。遼のキスはやや強引で思考さえもを押し飛ばすようなものだとすれば、顕のキスはどこまでも甘く優しく思考を蕩かせていくものだった。
 流し込まれる唾液をごくりと飲み込み、体内まで征服されていく感覚に酔う。
「透也、脱がせてやるよ」
 そう言って顕は透也の服を脱がし始めた。抵抗する理由も見付からず、顕が脱がしやすいように身体を動かし、二人の男の前で全裸になる。
 服を全て脱がされても、赤い革製の首輪だけは外されない。透也を装飾するその首輪は透也を酷く淫猥に彩っていた。
「今日は何しようかな」
 透也が顕に服を脱がされている後ろでは、遼はそんな事をぼやきながら寝室に備え付けのクローゼットを漁っる。そこは所謂玩具箱だ。外出時に着るには不向きな妖艶さを纏うための衣装から性玩具や拘束具、ビデオカメラや避妊具まで全てが収められている。
 鼻歌混じりにクローゼットを覗く遼は上から下まで視線を彷徨わせ、時折首を傾げては悩んでから、ようやくなにかを手にとった。
「よし、今日はこれにしよう」
 ジャラリ、と冷たい金属の音が透也の耳を刺激する。
 不安げに遼を窺う視線に気付いたのか、遼はクローゼットを閉めると再びベッドへと乗り上げ取り出してきたものを透也へ見せつける。
「えっ……と、これって手枷……っていうやつですか?」
 首輪と同じ赤い革製の、けれど首輪よりも太めのベルトが二つ、黒い金属の鎖で繋がれていた。鎖は短く、五センチ程の長さしかない。
「正解。さ、手を出して」
 遼は嬉しそうに微笑むと透也に手のひらを見せた。
 ほんの少しだけ迷ってから、その手のひらの上に自分の腕を差し出す。
「透也はイイコだね」
 手首にベルトが巻かれ、鍵をかけられた。肌を締めるその感触と、自由を奪われたのだという現実が、透也の内側の熱をぞわりと昂ぶらせる。
「後ろ慣らすから四つん這いになって」
 今度は顕に命じられた通り、マットレスに肘と膝をついて尻を高く掲げた。身体の中心にある秘部に突き刺さる視線を感じ、唇を噛み締めて羞恥を押し殺す。
「んっ……」
 粘りのある液体が尻に垂らされた。冷たい、と感じたそれはすぐに体温に馴染む。顕の指はそれを尻の谷間に塗り広げて自身の指にも馴染ませてから、後孔へと侵入する。
「最近、前より柔らかくなったよな」
 自覚していた事を指摘され顔から火が出そうだった。この家で暮らし始めてから、ほとんど毎日のようにセックスを強いられている。繰り返される行為に、身体はすっかり慣れきってしまっていて、指二本くらいなら慣らす事も不要な程に容易く飲み込む事が出来る。
「あ、顕さんっ……!」
 二本目の指を押し込まれたところで声をあげた。
 いくら慣れていて、ローションで潤わせていたとしても違和感が消えたわけではない。透也は拘束された手でシーツを握りしめ、その違和感に耐える。
「先に僕のモノ濡らしてもらおうかな」
 遼はそう言うとスラックスのベルトとフロントジッパーを寛げて萎えたペニスを取り出した。四つん這いになった透也の前に座ってその口元へペニスを突きつける。
「はい……」
 まだ軟らかいそれを喉の奥にまで飲み込んだ。じゅるり、と音を立てて執拗に唾液を絡めるとペニスはすぐに硬さを増し透也の喉奥を突く。
「んぐっ……!」
 粘膜を突かれると堪えようのない吐き気が込みあげた。それを押し殺し遼に快感を与えるために舌を絡める。とろりとした粘りのある唾液が溢れ出し、腹の奥が今にも逆流しそうな程に痙攣する。涙と鼻水が溢れ出し苦しくて仕方がない。けれど、遼の手のひらに後頭部を撫でられる度に苦しさが極上の愉悦へと変わる。
「今何本入ってるかわかる?」
 顕は透也の後孔に突っ込んだ複数本の指で体内を拡げるように動かした。
「んっ、ん……!」
 答える口は塞がれているので顕に返事をする事はできない。前立腺を強く押し込まれ、いつの間にか勃起していたペニスからぽたぽたと先走りの液体が零れた。
 後孔を拡げられ、背が震える。差し込まれた顕の指と、喉奥にまで突っ込まれた遼のペニスで身体を貫かれているような錯覚を覚えた。溢れた涙のせいで視界はぼやけていて、それが快楽を更に増長させる。
「そろそろいいかな」
 透也の背後で顕がそう言うと、遼は喉からペニスを引き抜いた。透也の唾液に塗れたペニスはてらてらと淫猥に光を反射している。
「んっ……げほっ……」
 喉を埋めるペニスがなくなっても、吐き気はすぐに消えるものではない。まだ何か詰まっているような気がして幾度も腹を上下させ咳き込んだ。
 遼は透也の呼吸が落ち着くのを待ってから、仰向けに寝転ぶ。
「透也、上に乗って」
 遼に促され、両手を拘束された不自由な体勢で遼の上に馬乗りになった。遼は自身でペニスを支え、腰を下ろす透也の後孔へとあてがう。
「あっ……!」
 透也の甘い声が部屋に響く。
 熱い媚肉が男根を飲み込み、何かを搾り取ろうとするかのように蠕動した。張り出たカリが内壁の感じる場所にぶつかり喉を反らし天を仰ぐ。根元まで飲み込んで、再び腰をあげる。こみ上げる愉悦のせいで視界に星が飛んだ。
 続けざまにゴリゴリと前立腺を擦られ、喉から悲鳴のような嬌声が溢れる。脊髄を快感が駆け抜けて膝が崩れ、落ちた腰を揺さぶられる。内壁を掻き回されて上体を前に倒したところで、拘束された腕を遼に捕らえられた。
 腕を強く引っ張られたせいで全裸の透也の胸が仰向けに寝転ぶ遼の胸と密着し、完全に遼へ体重を預ける事になってしまう。
「透也の欲しいモノあげる」
 囁く声音は透也の耳をそっと犯す。快楽に濡れたぼんやりした脳で、チョコの事だろうか、と遼に視線を向けた。それはどうやら正解だったようだ。
 遼は自分の作ったチョコを取り出し自らの口へと放り込んだ。そしてゆっくりと透也へ近づける。意図を察した透也はそれに応え、二人は言葉を交わす事もなく唇を重ねる。
 唇を割られ、遼の舌が透也の口腔へチョコを押し込む。と共に濃厚なチョコの甘さが広がった。そうしながらも、遼はゆるゆると腰を動かす。透也のペニスから溢れた先走りが遼の服を脱がす。口腔内を甘い舌で掻き回されながら後孔を刺激され、蕩ける香りと与えられる愉悦に酔ってしまいそうだった。
 チョコは透也と遼の舌の間で転がり、やがて融かされ姿を消す。透也は最後に残ったナッツは遼に奪われ、再度遼の口腔へと戻ったナッツは噛み砕かれ遼の胃へと落ちた。
 唾液で濡れた唇で恥ずかしげに微笑んで見せた透也はそのまま遼の胸に腕をついて身体を起こそうとする。けれど遼は透也の背に腕を回し強く抱き締めた。それと同時に、顕の手が透也の腰を捕まえる。
「え……?」
 首を捻らせてみるが、二人がかりで身体を抑え付けられているせいで大した抵抗にもならない。
 これから一体何が起きるのかなんとなく予想は出来た。遼の男根を飲み込んだ後孔に、二本目の男根をあてがわれ痛みの予感に身を強張らせる。しかし、顕はそのまま腰を押し進め――慣れた透也の身体は苦もなくそれを飲み込む。
「ひっ――――!」
 身体が今までにない程に開かされる。ここに暮らし始めてから様々なコトをしたが、二人同時に受け入れるのは初めてのコトだった。
「透也のココ、いっぱいに拡がって美味しそうに飲み込んでる」
 顕は透也の後孔の入り口を撫で、遼は頬を撫でた。
 不思議と痛みはなく、奇妙な圧迫感と被虐的な満足感に満たされる。下腹に力を入れると二人分の男根を感じ、それが何よりも幸せだと思えた。
 透也の腰を掴んだ顕はゆっくりと律動を開始する。その瞬間、どうしようもなく溢れる愉悦に眩暈がした。
 身体の内側を強制的に開かされる快感に呼吸をする暇もない。二人の男根に捏ねられた内壁はローションを泡立たせ、いっぱいに拡がりきった入り口からとろりとした液体を垂らしている。
「あああっ……」
 強く前立腺を押し込まれペニスから精液が溢れだす。絶頂を迎えているその間にも内壁を刺激する動きは止まらない。
「透也、愛してるよ」
 大好きな遼の声が快楽に堕ちた脳内に響く。
 許容量を超えた愉悦は辛く苦しいはずで、与えられる快楽に透也の思考は既に止まってしまっていた。
 二人に挟まれ二本の男根が内壁を擦る。まるで自分がそうされるためだけに生まれてきたかのようだった。
 射精を終えても絶頂は終わらない。柔らかく蕩けきった媚肉を捏ね回されて粘ついた快楽の海に溺れてしまっている。
 ベッドで絡みあう三人の隣にあるサイドテーブルの上では、透也が顕のために作ったチョコ味の氷が液体になっていた。



 透也は自分の作ったチョコを口に放り込み眉を顰めた。
「なんで味見しないのかな」
 呆れた溜息と共に遼は独り言のように呟く。透也は反論する事も出来ず俯くだけだった。
 自分で作ったのだからせめて自分で食べきってしまおう、ともう一口食べてみるがすぐに口元を抑えてキッチンに走り、コップに水道水を汲んで喉へ流し込む。
「透也は何もしなくていいんだよ、ペットなんだから」
 もう何度も聞いた台詞を聞かされ、透也も溜息を吐く。顕はそっと透也の背後から近づいて腰に腕をまわし抱きしめる。
「そこにいるだけで愛してやるから、無理すんなよ」
 その声は透也のためへの言葉というより、どちらかと言えば保身のための言葉に近い。
「そうそう、透也は何もしないでいるのが一番可愛いんだから」
 遼の言葉も随分と失礼なものだ。だが、どちらの瞳からもその奥にある愛を感じられる。
 自身の欠点は透也自身が一番よくわかっている。このままでは駄目だと焦る気持ちもあるが、二人に甘やかされる度、現状への停滞を望んでしまう。
 自身の拙さを受け止めてくれる二人の存在が、透也にとって何よりの幸せだった。
 だから、もう少しだけこのままでいたかった――。

この作品は
一次創作BL文字書きで集まり、指定されたシチュエーションと、指定された小道具(二種類/選択制)を組み合わせて濡れ場を書こう!
という
R18BL文字書きさん向け企画「いろんな人の濡れ場が見たい」企画参加作品です。

そしてボイスドラマ執着の檻後日談にあたります。
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