溺れそうな暗闇で、照らす光は眩しくて。 第六話


 夜が長い。
 コーキがそう意識したのは、隣で眠る遼の横顔を眺めていた時の事だった。在宅で仕事をしている遼は、昼間は仕事をし夜は眠る、というごく一般的な生活リズムを選んでいる。仕事が忙しければずれ込む事もあるが、基本的にはそのリズムを崩さない。
 そして、遼と一緒に暮らすコーキも自然とそれと同じリズムになる。
 しかし、日中にデスクワークや家事もこなしている遼とは違い、コーキは一日何もしていない。本を読むかテレビや映画を見ているだけだ。そのせいか、近頃は夜遅くなっても眠気がやってこない。
 すやすやと規則正しい寝息をたてている遼を見て、コーキは小さな溜息を吐いた。
 瞼を閉じても、いつまでも夢の世界に入り込む事が出来ない。眠ろうと思えば思う程目は冴えてしまう。それでも朝方になれば眠りにつく事は出来る。だが、その眠りも浅く、遼が起床する物音で目が覚めてしまうのだ。
 遼はまだ寝ていてもいい、と言うのだが、一度起きてしまうと二度寝もできなければ、昼寝をする事もできない。近頃の睡眠時間は一日に三時間にも満たない程だ。眠る遼へと距離を詰め、その体温を肌に感じる。
 血の通った暖かさは心地良く、遼にくっついているだけでわだかまる不安が溶けていくかのようだった。
――不安。
 いつでも、何をしていても落ち着かない。今までにそんな経験はなかった。その不安が何に由来するものなのか、コーキはよくわかっていない。自分自身が、よくわからなかった。
「ん……」
 遼が寝返りを打ち、仰向けからコーキの方へと横向きになる。けれど、コーキが距離を詰めすぎていたせいでその動きはうまくいかなかった。コーキを巻き込んで、その違和感に気付いた遼は瞼を持ち上げた。
「あれ……」
 電気のついていない部屋の中は暗かったが、カーテンの隙間から入り込む月明かりで目の前の物体くらいは視認できる。遼は自身の目の前にいるコーキを見て、不思議そうに辺りを見回した。
「まだ夜中?」
 眠たげに目を擦る遼は、いつもと違う時間に目覚めてしまった事にやや不満げな様子を見せる。
「起こしちゃって、すみません」
 起こしてしまった原因が自分にある自覚のあるコーキは、遼の顔を覗き込むようにして謝った。
 一日を通して何もする事がないコーキとは違って、遼は明日も仕事があるはずなのだから、夜中に起こしてしまうなんて申し訳ない気分だった。
「ん? コーキくんがなんで謝るの? 僕が勝手に起きたんだし」
 しかし、遼はそう言って微笑んで見せながら、コーキの背中に腕を回す。自ら距離を詰めていたはずなのに、そうして遼から距離が縮まると緊張してしまうコーキがいた。
「でも、俺がそこにいなかったら起きなかったわけですし」
 そうは言ってみたものの、遼はにんまりと笑みを零すだけで、ゆるゆると首を左右に振る。
「んーん。起きるつもりだったから起きたんだよ。それよりもさ、コーキくんはなんで起きてるの?」
 遼は、緊張に硬くなるコーキの身体を抱き寄せた。柔らかなベッドに身体を沈ませ、遼の体温に包まれる。
「……ちょっと、なんか眠れなくて」
 遼の手のひらがコーキの頬を撫でた。指先が唇を辿り、喉のラインを描く。その途中で首輪に引っ掛かり、コーキは自らに課せられたものを思い出した。
「眠れないって、なんで? どこか痛いとか、心配事があるとか?」
 遼は首を傾げ、心底心配そうな声を出した。だが、眠れない理由を問われたところで、コーキはその答えを持ち合わせていない。コーキも首を傾げ、曖昧に口角をあげて肩を竦めてみる。
「そっか」
 遼はわかったのかわかっていないのか、コーキの前髪をかき上げるようにして撫で上げると、腕を離し上体を起こした。ベッドのスプリングを軋ませベッドから立ち上がる。
「どこ行くんですか?」
 掛け布団を被り体温の余韻を感じたまま、遼の背中に問いかけた。
「朝ごはんでも作ろうかなーって」
 振り返った遼の言葉をきいて、コーキは初めて時計を確認する。目を凝らして壁にかかったアナログ時計を見ると、時刻は四時少し前を指していた。
「朝ごはん……って、もう起きちゃうんですか? 仕事、今日もあるんですよね?」
 いつも起きる時間まで、あと三時間程ある。今からでももう一眠りできるはずだ。けれど、遼は首を左右に振った。
「たまには凝った朝ごはんとか作りたいし。それに、仕事はひと段落ついたから今日はのんびりしてようかなって。コーキくんは好きにしていいよ。眠たいなら寝ていいし、起きておきたいなら起きててもいいし」
 そう言って遼は寝室を後にする。コーキは少しだけ迷い、起きる事にした。しばらくゆっくり寝ていないせいか身体が重く感じる。
 体重自体は増えるどころか、減っている自覚があった。だから、身体が重く感じるのは単純に疲れが溜まっているという事だろう。
 このままベッドの中でごろごろしていてもよかったのだが、一人でベッドに入っているのは嫌だった。
 一人きりは、思い出したくない事まで思い出してしまう。
 掛け布団を手放し、遼の後を追った。
 寝室の扉を開けてすぐにダイニングキッチンがある。対面式のキッチンで、ダイニングテーブルに座っていても料理をする遼の顔を見る事ができた。キッチンの電気だけを点けて料理をする遼は、何故かいつもとは雰囲気が違って見えた。
「眠くないの?」
 蛇口から水道を流し米を研ぐ遼は、手元を見詰めながらも四人掛けのダイニングテーブルへ着席するコーキに気付き言葉を紡ぐ。
「……遼さんと一緒にいたかったんで」
 コーキがそう言うと、遼は口元だけで笑った。普段、愛想が良くよく喋る遼だったが、仕事をしている時と料理をしている時だけはそちらに集中しているのか口数が少ない。
 コーキは自ら発信する方ではないので――昔はともかく、遼との生活ではもっぱら聞く側にまわっている――遼が黙っていると二人の間に会話はない。
 キッチンから漏れる水音や包丁がまな板を叩く音、陶器の食器がぶつかって擦れる音、そんな音たちを聞きながら、料理をする遼をぼんやりと眺めた。
 一体何を作っているのか、料理に縁のないコーキには全くわからない。何を作っているのか訊ねる程の積極性も持ち合わせておらず、ただ暇潰しのように眺めるだけだった。
 それでも――ただ眺めるだけでも、一人でいるよりはずっといい。余計な事を考えずに済む。
 そして、遼もコーキの視線を気にせずに動き続けた。
「はい、出来上がり!」
 遼が全ての調理を終えたのは、六時を少し過ぎてからだった。朝陽が昇り、電気を点けていなかったせいで暗かったリビングやダイニングも朝陽のおかげで明るくなっていた。
「……美味しそうですね」
 遼は作り終えた料理を一品ずつ皿に盛り、皿たちは大きな盆に載せられてコーキの元へと運んだ。
 炊き立ての白いご飯とわかめと豆腐の味噌汁、鮭の塩焼きに出汁巻き玉子、大根と厚揚げの煮物やきんぴらごぼう、その他にも数品の小鉢が並べられている。
 遼は自分の分も同じように運び、ダイニングテーブルへと座った。遼とコーキは二人で向かい合って座ることになる。
「口に合えばいいんだけど」
 遼は少しだけはにかんで見せた。
「いただきます」
 箸を手に取り、出汁巻き玉子を口に含む。
 ほのかな香ばしさが鼻孔へと広がり、卵が舌の上で蕩けた。
「どうかな?」
 不安げにコーキを窺う遼に気付き、コーキは視線を返す。
「美味しいです、とっても……!」
 それは嘘偽りのない本心だった。幾層にも巻かれた玉子は半熟というわけでは決してない。それなのにふわふわと柔らかく、口に含めば結んでいた糸が解けるかのように正体を失うのだ。
「そう、ならよかった」
 ほっ、と安堵の吐息を零した遼は、自らも箸をとり食事を開始する。
 毎日の料理は全て遼の手作りだ。朝昼晩、決まった時間になるとごろごろと怠惰に過ごすコーキを尻目に調理を開始する。
――なにも好きでごろごろしているわけではない。遼に何かを要求されればいつだって動く準備はできている。
 だが、遼がコーキにそれを求めないのは、やはりコーキがペットだからだろう。コーキが自らで考えて動かないといけないのはセックスの時だけだ。それに遼にとって、料理は趣味の一環でもあるらしい。準備に下ごしらえから盛り付けや後片付けまで、どの工程も遼自身がやらなければ気が済まないようだ。
 その拘りのおかげか、遼の料理はいつだって美味い。今までコーキが食べてきたものに外れはなかった。
 コーキは次に鮭をつまみ、口に含む。こちらの鮭も絶妙な塩加減で、ほんのりと焼き目のついた表面としっとりとした内部の食感に舌鼓を打つ。
 そして、茶碗を手に取り、盛られた白飯を口へと運んだ。幾度か咀嚼し――箸が止まる。
 口腔に広がる米の甘みは確かに美味しい。が、今はその甘さもくどく感じられる。飲み込もうとすると喉の奥から何かがこみ上げそうになり、嚥下を拒む。
 一体、どうしてしまったのかと茶碗を置いて味噌汁を口に流した。
 液体の力を借りて喉の奥に流しこめたのはいいものの、今度は味噌汁に入っていた豆腐を飲み込む事ができない。
 元々、空腹は感じていなかった。
 けれど昨夜の夕飯を終えて十時間以上経っているのだし満腹というわけでもなかった。どこか体調が悪いわけでもなく、ただ単純に食欲がない。そんな状況は初めてで、湧き上がる一抹の不安を押し殺すかのようにお茶で喉の奥へと無理矢理運んだ。
 料理が食べたくないわけではない。しかし、料理が飲み込めなければ食べる事も難しい。
 コーキは自分の前に出された皿に一口ずつ手をつけ、箸を置いた。
「あ、れ……?」
 そんなコーキを見て、遼は不安げに眉を寄せる。
「すみません、なんだか食欲なくて……。あ、あの、料理はとっても美味しかったです。このきんぴらとか甘くて好きです」
 出来る事なら完食をしたい。せっかく作ってもらったものを残すなんて、今までのコーキからすれば考えられない事だ。
「本当にごめんなさい。好き、なんですけどもうこれ以上食べられなくて……」
 遼にむかって頭を深々と下げる。
 何故食べられないのか、何故食欲がないのか、その理由がわからない。俯いたまま唇を噛みしめていると、遼が席を移動した気配を感じた。
 コーキの向かいから、ダイニングテーブルを回りこんでコーキの隣の椅子へと腰掛けた。
「大丈夫? どこか調子悪い?」
 自らの膝を見詰めるコーキの顔を覗き込んだ遼は、コーキが緩やかに首を横に振ったのを認め、コーキの頭を撫でる。
「食べられないのなら仕方ないよ。無理しなくていいから、ちょっとこっちにおいで」
 促されて、コーキは遼へと体重を預けた。胸元に頭を埋めるようにすると、上体を優しく抱きとめられる。
 とん、とん、とん、と、一定のリズムで背中を擦られ、そこから遼の優しさが全身にまわるかのようだった。
 指先が甘く痺れ、遼の匂いを胸いっぱいに吸い込む。
「ん……」
 遼と身を寄せたせいか、身体の奥にじんわりと何かが広がった。気を逸らそうとしてみるが、その間も遼の手や香り、体温を絶えず感じているのだ。
 逸らそうとすればする程、湧き上がる熱欲を意識してしまう。コーキはそっと顔をあげ、遼の唇を見詰めてから瞼を閉じた。
 一体今日はどうしたのだろうか。
 普段、遼から求められ性欲を意識する事はある。だが、今日のようにまだ何もしていないのに、欲情してしまうなんて、この家に来てからは初めてだ。
 遼に付き合って毎日しているのだから、溜まっているという事もないはずだった。自分自身に戸惑いながら、コーキは遼へ身を委ねる。
 コーキのお強請りにすぐに気付いた遼は、求める唇にキスを落とす。それを合図に、コーキは遼の首の後ろへと腕を回し、更に深い口付けをする。
 遼の口腔へ侵入すると舌を絡ませ、その舌を扱くかのように舐め上げた。後頭部から背中にかけてをなぞり、唇を離す。
 唇の端、頬、顎、首筋、それぞれに何度も音を立ててキスをし、舌を這わした。
 瞳だけで笑った遼は、コーキの耳元へ唇を寄せる。
「乳首、勃ってる」
 服の上からでもわかるように主張しているそれを指先で弾かれ身体が跳ねた。欲情している事を隠す事は出来なかった。
「どうして欲しい?」
 囁くような声で言われ、そこに含まれる色香に頬を赤く染めた。
「……気持ちよく、して欲しいです」



 ダイニングテーブルの上を片付けもせず、縺れ込むように寝室へと移動する。
「あ、ぁんん……」
 剥ぐように服を脱がされ、ツンと天を突く乳首が露わになった。全裸を彩るのは首輪とその赤い乳首だけだった。遼は乳首に貪りつくようにしゃぶり、そして指で責める。
「それっ、たまんない……!」
 熱い舌が、近頃敏感な小さな突起をねっとりと潰す。そうされると得も言われぬ快感が身体中を駆け巡った。
 喘ぐために開かれた口から甘い吐息が漏れ、部屋を妖しく染める。指先に捏ねられ、弾かれた乳首もじんじんと主張を増す。腰に直結する快感ではあるが、やがてそこだけでは物足りなくなってくる。
 知らぬ間に腰が浮き、もっと、と遼に続きを強請る。
 しかし、遼はコーキから身体を離して立ち上がる。
「コーキくん、可愛い。僕がうんと気持ちよくしてあげる」
 遼はそう言ってクローゼットへ向かうと、そこから玩具を取り出す。小さな箱に入ったそれは、コーキが見た事のないものだった。今日は何をするのか。その期待だけで胸がどきどきと高鳴った。
 ベッドに戻ってきた遼は、仰向けになったコーキの足の間に割り込むようにして座る。
「怪我しちゃうから、動かないでね」
 そう言って小さな箱を開けると、中からは指よりも更に細い棒状のものを取り出した。
 その器具に心当たりはなく、コーキは怪訝に眉を寄せる。
「え……と、それ何ですか……?」
 鈍いシルバーのそれは、緩やかな窪みが連なっていて、先端にいくにつれて細くなっている。
「ん、今日はこっちの躾けもしようかなって」
 遼は言いながら、コーキのペニスに触れた。
「ぁ……」
 漏れる吐息に羞恥を感じながら、遼が何をしたいのかわからず、そっと窺う。
 遼の人差し指は裏筋を根本から先端まで撫であげ、尿道口を塞ぐようにして押さえた。
「おちんちんの孔、経験ないよね?」
 そこまで言われてようやく合点がいった。
「ない……ですけど……そこ、怖い……」
 遼は尿道に玩具を挿しこもうとしているらしい。
 そういうプレイが世に存在している事は知っていたが、まさか自分の身に降りかかるとは思っていなかった。そこで快感を得られる、という事がまず信じられない。どう考えても痛みの方が勝ってしまいそうだ――。
 身を竦めるコーキに、遼は囁くように妖しく、腰に響く低音で言った。
「大丈夫だよ。怖いのは初めだけで、すぐ慣れて気持ちよくなれるよ」
 遼の言葉はまるで魔法の呪文のようにコーキの身体の奥にまで浸透する。
 魔法でなければ、麻薬か。
 身体の中心がじんと痺れてしまう。いずれにせよ、遼の言葉に逆らってはいけないルールだ。ここでコーキが抵抗し拒む事は許されていない。コーキは微かな迷いを残しながらも、小さく頷いた。
「いい子だ」
 満足げに頷いた遼は、金属製のそれを尿道口にあてがう。
「んっ……」
 押し当てられる冷たさに声が漏れ、慌てて手の甲で唇を押さえた。抵抗をしないからと言って、嫌だと思っていないわけではない。押さえていないと「嫌だ」と言ってしまいそうだった。
「いれるよ」
 ずるり、と器具が尿道をこじ開ける。そこは普段、出るばかりの場所で、本来であればそんな器具を入れるような場所ではない。
 指程の太さもない癖に、その存在感は凄まじい。金属の棒は狭い孔を奥へ奥へと犯していく。
 知らない場所を内側からこじ開けられる違和感に溢れ出てしまいそうになる声を、手の甲に歯を立てて耐える。動いて怪我をしてしまうのが怖く、身体中が強張ってしまっていた。
 そして、その棒はやがて根本まで埋め込まれる。
「んぁっ……」
 根元に到達したその瞬間、コーキの背が反り返った。その反動で手が唇から離れ押さえていた声が漏れる。
 本当にそこで快楽が得られるという事実と、遼に身体の奥まで知られてしまったのだという倒錯的な快感に頭がくらくらとする。
「あ、ちゃんと届いた?」
 嬉しそうに言った遼は、続けざまに尿道口からはみ出た棒をを指先で弾く。
「んひぃ……!」
 脳天を突くような快感に襲われ悲鳴をあげた。
 差し込まれた玩具の先端が快感の源をかき回し、暴力的なまでの愉悦に髪を振り乱す。
 そこで得る快楽がこれ程までに強烈なのだとは思ってもみなかった。
 まるで自分は快楽を得るためだけでに生まれてきたのではないかと思える程の天にも昇るような愉悦だ。
「気持ち良くなってるコーキくん可愛いね」
 うっとりと浸るような口調で言いながら、もう片方の手は後孔へと潜り込む。
 いつの間に用意をしたのか、指は既にローションで濡れていた。すっかり慣れきってしまった身体は遼の指を難なく受け入れる。
「ひっ……! や、それ……、きもちい……!」
 後孔から前立腺をくすぐるように刺激され、尿道口からの刺激も途絶える事はない。腰の奥で生まれた快感は背筋を伝って脳髄を焦がし、全身へ拡散される。
 前後から絶え間なく与えられる愉悦に吐息を荒げた。足の指先が何度も丸まり、両手は整えられたシーツを引っ掻いて乱す。
 後孔を広げる指は徐々に増え、三本を根本まで受け入れたところでずるり、と一気に引き抜かれた。
 ついでのように前立腺を抉りこまれ、部屋に響き渡るような大きな嬌声をあげる。
「あ……遼さん……だめ……!」
 今そこにそれを入れられてしまうと、自分自身が本当に壊れてしまいそうだった。――それ程までに、体内の快楽の源を抉られる快感はコーキの脳髄を融かしていた。
 けれど、遼はコーキの抵抗にも構わず指と入れ違いに、怒張したペニスが押し当てる。そのまま腰を進め、尿道口に差し込まれた棒はそのままで、指とは比較にならないそれが体内へと侵入した。
 奥まで到達する事なく、入り口に近い部分で止まったそれは、一番太いカリの部分でコーキが感じる場所を刺激するためだ。
「い……あぁ……!」
 ペニスから顔を出す棒をぐるりと回され、そこから溢れる快感が思考を奪う。
 頭の中が白く染まる。遼のペニスをこれでもかと締め付け、内壁が意思とは関係なく蠕動し快感を貪欲に追う。周囲の音が聞こえなくなり、身体を覆う快感に支配される。知らない間に腰がガクガクと震え、身体が硬直する。
 それはコーキが初めて味わうドライオーガズムだった。
「気持ちイイのに、だめなんだ?」
 遼は楽しそうに笑うと、締め付ける内壁に逆らって前立腺を突く。辿り着いた高みからまだ戻ってこれていない。それなのに断続的に責められ、我も忘れて喘ぐ。
 遼が腰を打ち付ける度に度にコーキの身体は面白い程に跳ね、昇った高みをふらふらと彷徨った。唇の端から零れた涎で頬が汚れても、それを拭う余裕はない。今のコーキに、遼が何を言っているのかを理解する能力もなかった。
 ただ与えられるままに快楽を貪る玩具のような存在に堕ちていた。
「コーキくんが僕の傍にいてくれるなら、世界で誰よりも一番気持ち良くしてあげる。僕のペットになって良かったって思ってもらえるような快感を君にあげる」
 背を弓なりに反らせたコーキの肩を押さえ、遼は自らの快感を追いはじめる。
「ひあっ……!」
 窄まった粘膜を奥まで押し広げられ、コーキは悲鳴をあげた。
 一度覚えてしまった快楽は、コーキの身体を淫らに染め上げる。
 過ぎる快楽は苦痛を伴うが、その苦痛にさえ快感を覚えた。
 自らの身体の変化に怯えながらも、快楽に溺れてしまう。
 愉悦に浸っている時だけは全てを忘れる事が出来た。
 他のどんな煩わしい出来事も、快楽に溺れている時だけは考えずに済む。
 過去も、未来も、何もいらなかった。




励みになります!

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おなまえ


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