溺れそうな暗闇で、照らす光は眩しくて。 第三話


「コーキくん、お風呂入ろっか」
 食事が済み、一通りの後片付けも終えると、遼はそう言ってコーキを風呂場へと促した。
「わかりました」
 脱衣場につくと遼に服をとられあっという間に――と言っても元々一枚しか着ていなかった――裸にされる。もちろん遼も裸で、裸なんて昨夜見たはずなのに、恥ずかしくて直視する事が出来なかった。
 なんとなくそんな気はしていたが、やはり一緒に入るようだ。浴室はファミリータイプのものらしく、湯船も洗い場も男二人で入っても窮屈には感じない。
「僕が全部洗ってもいい?」
「……いいですよ」
 遼に逆らう権利はないはずで、逆らえば途端に不機嫌になるのに、わざわざそうして訊いてくる。答えは決まっているのだから、コーキには面倒くささの方が勝ってしまう。だが、その思いは肩を竦めるだけにして声には出さなかった。
「コーキくんの髪、つやつやしてて触るの楽しいよね。癖もないし、コシがあって綺麗」
 浴室内に喋る声が反響する。遼はコーキの髪をシャンプーまみれにしながら言った。
「そう……ですかね?」
「そーだよ。いいなぁ。雨の日のセットとか、困ったことないんじゃない?」
 言われてみれば、雨の日だからと言って髪のクセが強く出たりする事もなかった。自分の髪質なんて気にした事もなかったが、言われてみれば確かにそうかもしれない。
 爪を立てないように、指の腹で頭皮をマッサージするように揉まれ、その心地良い感覚に吐息を漏らす。人に頭を洗われるのは何故こんなに気持ち良いのだろうか。
 シャンプーを落とすと今度は身体を洗われる。
 少し足を開いて真っ直ぐ立つように促され、その通りに立つと遼はタイル貼りの床に手をついてコーキの身体を洗い始めた。小さなタオルで身体の隅から隅まで、だ。肩や背中までなら、まだなんとか耐えていた。
「洗ってるだけだから逃げないで」
 洗ってるだけ、でも太ももの付け根や足指の先はくすぐったくて、変な感じがする。
「で、でも……」
 文句が出そうになったところで唇をぎゅっと閉じ、洗い終わるのを待った。遼の手がどこか別の場所を触るのではないかと危惧していたが、どうやら遼にそのつもりはないようで、あくまで洗うだけが目的らしい。
 大体の部分を洗い終えると、次は泡を流すためにシャワーをかけられる。先ほどは耐えた敏感な場所への刺激に逃げるように腰が揺れた。
「動かないで」
 鋭く言われて、先ほどのように唇を噛んで動かずにいようとしても勝手に身体は動いてしまう。
「ほら、もう」
 遼は腰を抱えて動けないようすると、容赦なく股間にシャワーヘッドを押し当てる。
「ひっ……」
 玉から尻を隅々まで湯に流し込まれ、ひくりとペニスが跳ねる。
「今度はこっち」
 そして、今度はその跳ねた性器を掴む。
「うう……」
 半分被った皮を引きずりおろし、皮の間にたまった汚れまで水流を浴びせて流していく。敏感なその場所にあたるシャワーの水流に、身体中の血液が中心部に集まりはじている気がして懸命に気を逸らす。
――半勃ちは勃起に含まれるのだろうか。
 遼に何か言われるかと思ったが、身体を洗い終えると先に湯船に入っているよう指示をされた。湯船には既に湯が溜められていて、ちょうどいい湯温だった。肩までお湯に沈めて、今度は自身の身体を洗い始めている遼を観察する。
 遼の事は何も知らない。性格だって、短気で変な人だという事はわかったが、それ以外は何もわからない。
 けれど、それは遼の方だって同じはずだ。
 コーキの事は何も知らない。コーキの過去に何があったのか、何も知らない。何も知らないコーキをよく連れて帰ってくる事が出来たものだ。何度も思った事を、また思った。
 コーキを洗った時よりも手早く身体を洗い終えた遼も湯船に入ってくる。二人湯船に入った事で、湯が勢いよく溢れて排水口に流れ込んだ。
 遼は身体を温める湯に身体を預けほっと息を吐く。
「こんな可愛い子をペットにできるなんて、幸せだよね」
 遼の濡れた指先がコーキの頬に触れた。天井から滴った水滴が湯船に落ち、水面を打ち鳴らす。
「……俺も、遼さんのペットになれてよかったです」
 そんな事は思ってもないけれど、言う。遼の機嫌をとるためだけの、口からのでまかせだった。それは遼もわかっていたようで、口元だけで笑むと浴槽とは反対側の壁を向いた。
 壁には何もない。浴室の不愛想な壁があるだけだ。何も言わず、ただ見詰める。会話もなくて、二人で壁を見詰めるだけの不思議な時間だった。
「そろそろ出よっか」
 遼から声がかかったのは、そんな時間にもちょうど飽きてきた頃だった。
 風呂を出て、遼に身体を拭いてもらい新しい服を着る。遼に着せてもらったせいでデザインを確認する暇がなく、袖を通してから着ている服を見た。
「えっと……」
 淡いピンク色の生地のパーカーで、に袖やフード部分に白い飾りがついている。今回はパーカーだけでなく同じデザインの短パンもセットだった。
 だが、下着は与えられなかった。下着なしに短パンを履くというのはどうにも落ち着きがない。
「えっと……」
 出てくる言葉がなくて言葉を繰り返す。遼を見てみればにやにやと、実に楽しげな、どちらかと言えばいやらしい瞳をしていた。
 腕を伸ばし、身体をひねって足元を見る。二の腕周りはやや余裕があってだぶついているのに対し、胴回りは身体にフィットしたスリムな造りになっている。特徴的なのはパーカーにうさ耳がついている事だろうか。そういうデザインの服が存在するのは知っていたが、まさか自分が着る羽目になるとは思っていなかった。
「遼さん……」
「可愛いよ」
 そう言われてしまえば返す言葉はない。諦めて与えられた服を受け入れる事にした。それにしても、この服は女性向けに作られた服なのではないだろうか。少なくとも成人男性が着る服だとは到底思えない。
 一体こんな服をいつの間に用意したのか――通販か、と思い至って溜息を吐く。遼はTシャツにスウェットパンツというごくごく普通のいでたちだ。俺もそっちがいい、と言えば普通の服に変えてもらえるのだろうか。試してみる価値はなさそうで、もう一度溜息を吐いた。



 寝室に戻り、ベッドへと寝転がる。
 今日は何もしていないのにやけに疲れているのは、慣れない場所で過ごした精神的な疲労だろうか。眠気はないものの、身体が怠い。そう言えば昨晩はあまり眠れなかった。
 遼は部屋の電気を消すと、ベッドへと潜り込んできた。熱い手のひらがうさ耳のついたパーカーを裾から捲り上げる。
「遼さんっ……!」
「今日も気持ちよくしてあげる」
 耳元で囁かれて、愉悦が蘇る。昨夜初めて体感した後ろでの快楽は、今までに経験してきたどんな快楽よりも深く、高みを目指せるものだった。――それを思い出すだけで鼓動が走り始める。
「あっ……」
 服をパーカーをはぎ取られ、着たばかりの短パンを足から抜き取られる。
 逃げようともがく腰を捕まえられて、熱い遼の手にペニスを握りこまれた。本気で抵抗しようと思えばできるはずなのに、それをしなかったのは遼への服従心のせいだろうか。――それとも、昨夜の快感をまた求めているからだろうか。親指で先端をこねくり回すように扱かれ、跳ねた腰と連動するようにペニスが硬さを増す。
「気持ちイイこと、好き?」
 吐息が耳にかかって、背筋を電流が走る。
「あ……す、き……」
 もっと刺激が欲しくて、無意識に腰が揺れた。
「ちゃんと言って、気持ちイイことが好きって、ちゃんと言ってみせて」
 それが恥ずかしい言葉で、恥ずかしい言葉だからこそ言わせようとしているのだと、すぐにわかった。
「……っ!」
「言って?」
 裏筋を爪の先で撫でられて、心臓が跳ね上がる。躊躇したのはほんの一瞬で、僅かな理性も吹き飛んで結局唇を開いていた。
「好き……気持ちイイの……好き、……だから、もっと……!」
 もっと刺激が欲しかった。
 全てを忘れられる快楽が欲しかった。
 頭の中が空っぽになってしまうような愉悦が欲しかった。
「いいよ。キミの望むままに、全部あげる」
 遼の手は根元から先端までリズムよくペニスを扱く。そうしながらもコーキの足を限界まで開かせ、その奥にある孔へと指をあてがった。
 いつの間に準備をしたのだろうか。ペニスを扱いていない方の手は既にローションか何かで濡らされていて、昨夜初めて男根を受け入れたばかりのそこは、濡れた指の侵入を易々と許す。
「んぁっ……!」
 感じる場所はもうわかっている。体内のそこを抉るように擦られて、過ぎる快楽に腰は逃げそうになる。
「気持ちイイこと、たくさんしてあげる」
 けれど、遼に体重をかけて身体を抑えつけられて、逃げようにも逃げられなかった。
「ひぁぁぁぁっ……!そこ、そこばっかりは……!」
 快楽の神経を直接鷲掴みにされるような快感は、まるで火あぶりにされているかのような地獄にも似た快感だった。
「コーキくんはおちんちんよりも後ろが好きだね」
 そう言って遼はペニスへの刺激をやめ、後ろにだけ集中をはじめた。身体の中から湧き上がる快感は麻薬のようで、このままでは頭がおかしくなってしまう。そんな予感で怖くて――。
「ひいいいっ」
 下肢ががくがくと震える。知らぬ間に二本目の指が挿入されていて、快楽の源を猫の喉をくすぐるかのように二本の指で交互に刺激される。
 頭の中は真っ白で、もう何も考えられなかった。身体を支配する快感だけが頼りで、白いシーツをかきむしる。
「コーキくん、可愛い」
 うっとりと恍惚に満ちた表情の遼は、快楽に身悶えるコーキへの刺激をやめようとはしない。弓なりに反った背がシーツから浮き、脳髄をかき回されるかのような快感に身を委ねる。
 これ以上はダメだ――理性がどこかでそう訴えているのに、貪欲な身体は新たな世界を求めてその場所を目指す。
「ひあああああああ」
 悲鳴のような声をあげてその瞬間を迎えた。全身が痙攣するそれは、頭のてっぺんから快楽が噴き出るようだった。高みに到達したら身体はそこから降りる事が出来ず、いつまでも快楽のさなかで揺さぶられる。
 絶頂を迎えたのだ、と悟った。
 けれど、勃ちあがったペニスからは何も出ていない。幾度も震えているだけだ。そして、それでも遼の指の動きは止まず快感を押し付けてくる。
「はるかさんっ……! だめぇっ……!」
 続けざまに与えられた快楽で、真っ白な愉悦の世界から帰ってくる事が出来ない。身体中が熱くて、頭の芯が溶けてなくなってしまう。
「だめ? こんなに気持ちよさそうなのに」
 そう言って遼はコーキのペニスの先端を人差し指でつつく。
「ひっ……!」
 快感が増幅し、絶頂が重なる。
「コーキくん、淫乱の才能あるよね」
 指の動きは止めないまま、他人事のようにそう言った遼はにやりと口角をあげた。
「んっ……あ、そこ、も、ダメ……!」
 息をする余裕も、唾液を飲み込む暇もなくて言葉が途切れてしまう。
「ダメって言われるともっとしたくなる」
 だが、いくら訴えても指の動きが止まる事はない。快楽の神経の源を抉られて、そこから快感が身体中に飛び散り燃え広がる。過ぎる快感は苦しさを伴うのだ、と今初めて知った。毒のように甘い快感は身体中を蝕み、全てを溶かしていく。クセになってしまいそうな程の激しい愉悦に身体を震わせながら、この快感がもっと続けばいい――そう思ってしまう。
 自分がその部分だけになってしまったかのような錯覚があった。
「んあっ……! 遼……さん……!」
 けれど、本当にもうやめて欲しかった。このまま刺激され続ければ、自分じゃない何かになってしまいそうだった。
「ひっ……あ、もっと……!」
 逆の事をしたくなるのなら、して欲しい事と逆の事を言えばいいのではないか。そう考えてしまったのは、快感に侵されていたのだから仕方がない。腰を振り、誘うように遼に見せつける。
「……いいよ」
 意外な事に遼はコーキの予想した通り指の動きを止めた。
「ぁ……」
 送り込まれる愉悦が止まっても、快感は身体に残ったままじんじんと痺れを残している。
「指、抜くよ」
 そういいながら、内壁を指の腹で強く擦りつけるようにして引き抜き、その排泄感に吐息を漏らした。絶頂を迎えたのにまだ精液を出す事は出来ていない。身体の中に熱が溜まりこんでいるような気がして身体を起こそうとシーツに腕を立てようとした。
 しかし、指を抜かれた排泄孔にまた体温を感じる。そしてそれは奥を目指して入り込んできた。
「んっ……」
 一体それが何なのか、なんて事は見ずともわかった。指とは違いすぎる容積で内側を広げられて、過ぎ去ったはずの快感を予感する。
「コーキくんのナカ、いい感じ」
 耳元で囁かれた言葉に反応して、男の形がわかる程に内壁を締め付けてしまった。
「あっ……!」
 体内で感じる脈打つ男根は、全てを根こそぎ奪い去っていくかのようだ。遼はコーキの腰を両手で持ち、勢いよく中を抉り始めた。
「ひぁぁぁっ……!」
 気持ち良かった場所を容赦なく男根で抉られ、意図せず悲鳴が漏れる。それが恥ずかしくてぐっと唇を噛み締めた。
 入口を限界にまで広げ、手前の方にある感じる場所を擦り、意識した事もないような奥を打ち付けられる。どうしようもなく気持ちよくて、縋りついたシーツを握りしめる。
 呼吸を荒げ快感を追う男に求められているのだと思うと、干からびた自尊心が満たされるような気がした。
「ここ、好き?」
 狙いを定めて感じる場所だけを刺激されて、求められるままに頷いた。今度は射精したくて、自らのペニスに手を伸ばす。
「んんっ……遼さんっ……!」
 体内を広げられながらの自慰は、自分が快感を追うだけの生き物になってしまったかのようだった。けれど、それが何よりも気持ちよかった。足をめいっぱい広げ、遼を受け入れる。
「コーキくん、イキそ」
 それは何かの宣言だったようだ。快感に染まった脳ではそれを理解する事も出来ないまま、遼に身体を揺さぶられた。抉られる場所はぐずぐずと疼いて、新たな刺激を求めたその瞬間に再び抉られる。
 内側から湧き上がる愉悦と、ペニスを擦る刺激が混ざり合い絶頂に手を広げる。
「ひっ……」
 自らの上体に白濁の液体を放った瞬間、体内へ遼の欲望をぶちまけられる。流し込まれるその液体の熱さを感じながら肉棒を締め付け、媚肉はその液体を絞りとろうとするかのように蠢いた。
 体内に染み入る男の子種に、身体と心が征服されていく――錯覚を感じた。



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